ゲイにとって、カミングアウトは一大決心。
カミングアウトをした相手に望むことについて。

  • 2020.09.24
  • 2020.10.21

ライフ・生活

カミングアウトという言葉を聞いたことがあるでしょうか。
最近では、テレビなどでも聞かれるようになりましたが、正しく認識している人はどのくらいいるでしょうか。

カミングアウトというのは、辞書(大辞林第三版)から引用すると以下の通り定義されています。
“社会一般に誤解や偏見を受けている(同性愛者などの)少数派の主義・立場であることを公表すること”

より簡単に言えば「自分はゲイです」と相手に告げること、になると思います。
このカミングアウトですが、当事者でなければなかなか伝わりにくいかもしれませんが、実際に行動に移すのは本当に勇気のいることです。

カミングアウトするかしないか、したらどうなるか、色々なことを考えます。
いわば、カミングアウトをするというのはゲイにとっては人生を左右するくらいの一大決心でもあるのです。

そこで今回は、ゲイがカミングアウトした相手に望むこと、についてお伝えしようと思います。

カミングアウトするのは性的少数者だけ

そもそもゲイ(を含めた性的少数者、LGBT)はなぜカミングアウトするのでしょうか。

その前にちょっとしたお話をしたいと思います。
仮に、あなたが男性の異性愛者で女性を恋愛対象としている男性だとしましょう。

その場合、わざわざ誰かに「実は自分は女の子が好きで恋愛対象なんです。」と周りに伝えたりするでしょうか。
まずそんなことはしないと思いますし、した事がある人も、そんな事を言われたという人もいないと思います。

これは、世の中の多くの男性にとって女性が恋愛対象であるということは、いわば周知の事実でありそれをいちいち誰かに告げたりしないですし、する必要もないからです。

そのため、カミングアウトというのは、一般的には性的少数者しか行いません。

ですが、よく考えたらおかしなことだと思いませんか?
ノンケ(異性愛者)であれば、わざわざ性的指向をカミングアウトすることはないのに、ゲイにはそうしたことが付きまとうのです。

するべきかしないべきか、当事者間ですら意見がわかれるほど

カミングアウトというと、なかなかイメージしにくい方もいるかもしれません。
その場合は、自分がまだ誰にも明かしていない、一生明かさないつもりでいる秘密を、皆に伝えるといった事をイメージしてもらえればと思います。

それくらい、当事者にとってカミングアウトは重大な決心であり、そのため、ゲイはこのカミングアウトをするかは非常に悩むのです。
自分の恋愛対象が同性であることを周囲に伝えるべきなのか、伝えないべきなのかで悩むのです。

そして、このカミングアウト、ゲイの間でも「絶対にしたほうが良い」という肯定派から「相手によっては、しても良い」「自分が置かれた状況によってはするかも」と臨機応変に対応する派、「わざわざする必要はない」「絶対にしないほうが良い」という否定派に分かれています。

そもそもゲイはなぜカミングアウトするのか?

カミングアウトするのかどうかは、個人の価値観やライフスタイルに関わってくる大きな問題ですから、するかしないかは各々の判断に委ねられます。

最近ではLGBTをサポートする人、団体が増えてきていることや、世の中でも少しずつ認められつつあるため、カミングアウトをして周囲に自分の性的指向を伝えるゲイは一定数います。

ですが、そもそもで言えば、なぜゲイはカミングアウトするのでしょうか。
ストレートの方で女性が好きな男性は当然ながら、わざわざ自分は女性が好きで恋愛対象です。と公言したりすることはありません。

なぜカミングアウトをするかというと、それは一言で言えば「本当の自分を知ってもらって、その上で相手に認めてもらいたい、受け入れてもらいたい」からに他なりません。

ほとんどのゲイは、自分の性的指向に気づいたときに戸惑います。
自分は男なのに男が好きみたいだ、これはどういうことなのか?といった感情から始まります。

  • 自分は病気なのだろうか?
  • なぜこんなことになってしまったのだろうか?
  • どうしたらこれを治すことができるのだろうか?

などのように、次から次へと疑問が溢れ出てきます。
そして、この戸惑い悩んでいる時に必ず共通しているのは「この(同性を好きだという)事実は、絶対に誰にも言えないし知られてはならない」と考えることです。

これは知られれば、どうなるかというのは今までのゲイの扱われ方を考えれば言うまでもありません。
嘲笑やイジメの対象などになりかねませんので、自分がゲイだと知った時、絶対に誰にも知られないように生きなければ…と思ってしまうのです。

そして、それと同時に「友達や家族、同僚の前では、異性が好きなフリをしなくてはいけない」と思うようになります。
誰かと一緒にいるときは常に自分ではない誰かを演じ続けることになるのです。

恋愛や結婚の話題で嘘を付き続ける必要性

学生時代であれば、恋愛話がさかんです。
誰が好みだ、どの容姿が好きだといった話は誰もが青春時代にしてくる話題ですが、ゲイの場合はこの時、ゲイだと見破られないように嘘をつきながら過ごさなければなりません。

また、社会人になれば今度は結婚などの話題も登ってきます。
30代を超えてくるようになると、いい人はいないのか?といった話題や、結婚をしないのかといった話題にもなります。

それも、カミングアウトをしていない限り、バレないために嘘を付いて適当にごまかしたり濁し続けなければなりません。

偽りや嘘を付き続けることに対する疲労感・罪悪感

俳優や女優を職業としている人でさえ、ドラマや映画で「カット」の声で演じることを止め、舞台を降りたら素の自分に戻ることができます。
しかしながら、ゲイはいつでも「女性が恋愛対象の自分」という役回りを、延々とやり続けなければならないのです。

その結果、どうなるか。
演じ続ける自分に疲れ果ててしまうだけでなく、常に周りに嘘をついている自分に嫌気がさしたり、罪悪感を感じてしまうようになったりするゲイが多いのです。

特に心が純粋で素直な人や、一本気で真っ直ぐな人ほど、自分の友人や家族に嘘を付いているということを感じてしまったりするため、その傾向が強いのではないでしょうか。

そしていつしか「誰か一人くらいには、本当の自分のことを知ってもらいたい」「本当の自分を受け入れてもらいたい」と考えるようになり、カミングアウトが頭をよぎるようになるのです。

ゲイは誰にカミングアウトするのか?

こういう考えに至って、ゲイはカミングアウトをするかと頭をよぎります。
誰かにカミングアウトしたいと考えたゲイが次に考えるのは、「いったい誰にカミングアウトしたら良いのだろうか?」ということです。

今までの人生の長い時間、自分の心の中だけに留めていた大きな秘密ですから、そう簡単に話せることではありません。
そして、誰にでも伝えられるはずもありません。

では、いったい誰にすればいいのか?と悩み、こういった考えが頭の中をグルグル回ります。

会社の同僚や先輩はどうか?
いやいや、職場でもしゲイだとバレたら仕事を続けにくくなるし、変な色眼鏡で見られたら働きたくなくなるに決まっている。

学生時代の仲間はどうか?
今さらそんなことを伝えたら、今後の関係にヒビが入るかもしれないし、もしかしたら「俺たちを騙していたのか」と言われてしまうかもしれない。

家族はどうだろう?
母親は「じゃあ孫の顔が見られないのね」と悲しむかもしれないし、父親は「そんな女々しい男に育てたつもりはない」なんて怒るかもしれない。

こうやって、段々と選択肢が狭まっていきます。
そうなると最終的には「この人なら絶対に秘密を守ってくれるだろうし、ゲイである自分も認めてくれる心の広さも持ち合わせてる人」という人に落ち着くことになります。

それはもしかしたら親友かもしれないし、信頼している先輩や幼馴染み、女友達かもしれません。
いずれにしてもゲイがカミングアウトを伝える人というのは、「信頼を置いている人」というのが共通点です。

リザライマガジン内でも、筆者の体験談を元に、カミングアウトするなら誰から?という記事で詳しく解説しています。

【体験談】家族?友人?ゲイをカミングアウトするなら誰からが良いのか
ゲイの方にとって、カミングアウトというのは常に悩まされる問題です。 既にしているという人もいるでしょうし、一生 …

実際にカミングアウトに遭遇する確率はどれくらいか

ここまで、ゲイはなぜカミングアウトするのか、誰にカミングアウトするのか、そんな葛藤についても話してきました。
次に、ここであなたが実際にゲイの友人や知人からカミングアウトされる確率について考えてみましょう。

一般的に世の中には人口の1割弱のLGBTが存在すると言われており、LGBT研究所の調査では8%ほどという数字が出ています。
そして、LGBTの当事者が、実際に職場でカミングアウトする人の割合は僅か4%ほどと言われています。

つまり、あなたが職場で誰かにカミングアウトされる確率というのは、全体の8%のうちの4%ということで、単純計算するとわずか0.3%ということになるかと思います。

日本の人口が1億2,000万人だったとして、LGBT当事者の人数が8%だった場合、約1,000万人ほどになります。
その全国の1,000万人ほどのLGBT当事者のうち、4%がカミングアウトするということで、40万人ほどしかいないということになります。

これはどういうことかわかるでしょうか。
仮に、あなた自身が当事者からカミングアウトされるとするなら、あなたはそれだけLGBTである誰かから、人として非常に信頼を置かれているということに他ならないのです。

この人なら…と当事者が思うほど、それだけ人間性を評価されているということをまずは知っておいて欲しいのです。

実際にカミングアウトされたらして欲しいこと

とはいえ、先ほども挙げた数字でわかるように、カミングアウトをする数自体、多くありません。
ですから、実際にカミングアウトされる経験というのは多くの人にとっては未体験でもあり、実際にされた場合はどうしていいかわからないといった声もよく上がっています。

もしあなたがゲイを含めたLGBTの当事者たちからカミングアウトされた場合、どうしたら良いのでしょうか。

これまでお話ししてきたように、多くのゲイは自分のなかで同性愛者ということや、それに付随する様々な問題を抱えきれなくなりそうな状態でカミングアウトをします。

カミングアウトするその時は一瞬かもしれませんが、それまでにはそれこそ何年、何十年と悩み続けてきた葛藤や苦しみがあるのです。
そして、カミングアウトする相手のことを、非常に信頼しています。

ですから、もし、あなたが誰かからカミングアウトされた場合、まずは「正直に話してくれてありがとう」と感謝の気持ちを伝えてあげて欲しいと思っています。
それだけで、たったそれだけと思うかもしれませんが、カミングアウトした側は、肩の荷が降りたような安堵感に包まれるのです。

間違っても「ゲイなの?気持ち悪い」と言ったり、「ゲイなの?超受ける」と笑ったり、「もしかしてオレのこと好きなの?狙ってるの?」と誤解したりするようなことは、しないであげてください。
それと同時に、正直に打ち明けた相手のことを一人の人間として受け入れてあげてください。

「◯◯(カミングアウトしたゲイのこと)は◯◯だから、これからも関係性は変わらない」とか「本当の◯◯を知ることができて良かった」と伝えてあげられたら、相手は絶対に喜ぶはずです。

そして、出来るならゲイについて興味本位であれこれと質問するのは控えてあげてください。
いきなりカミングアウトされて、戸惑ってしまったりする気持ちもわかりますが、それらの質問が単純な好奇心からだったとしても、相手の心を傷つけてしまいかねないのです。

ゲイの方から話してくれるようになるまで、待ってあげてもらえると嬉しいです。

誰かに言ったりアウティングはしないでください

最後に、その人がゲイであることは、絶対に誰にも言わないでください。
LGBT当事者のカミングアウトというのは、先ほどから書いてきたように、それこそ何年・何十年と悩みに悩んで、この人ならと思って打ち明けています。

あなたが、1人くらいなら大丈夫でしょ。と思って、誰かに伝えたとしたら、その1人がまた別の誰かに話してしまって、となり、いつの間にか多くの人に知られてしまいます。

カミングアウトされた後、どう思うかはもちろん人それぞれかもしれません。
場合によってはギクシャクする関係になることも、戸惑ったりどう接していいかわからないといった事もあるかもしれません。

ですが、その秘密をバラしてしまうということは、カミングアウトした人の安定した社会生活を脅かすということを忘れないでください。
カミングアウトされるということは、あなたがその当事者の方から心から信頼されているという証でもあるのです。

どうかその信頼は裏切らないであげていただき、秘密はあなたの心の中だけに持っておいてください。
それがカミングアウトしたゲイの幸せに直結しますし、不幸になるゲイを減らせるのです。

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この記事を書いた人

いなば

いなば
神奈川県生まれ。小学生の頃から何となくゲイだと気付き、中学高校と男子校で過ごすなかでセクシュアリティーを確信。大学在学中に母親へカミングアウト済み。
20歳で初めて自分以外のゲイと出会う。
相方の海外駐在に伴い、退職して赴任先へ付いていったことも。
生意気で向こう見ずなクソガキ時代から年齢を重ね、徐々に穏やかで楽天的な性格に。元新聞記者で現在はライター・カメラマン・インタビュアーとして活動する東京在住の40代ゲイ。

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